16年続く亀戸のスペイン郷土料理店
公開日:2026年8月14日
※取材時点の料金、営業時間など変更している可能性があります。最新の情報はお店にお問い合わせください。
亀戸の街を歩いていると、実に多くの飲食店が目に入ります。
焼き鳥、居酒屋、ラーメン、町中華。歩けば歩くほど新しい店が見つかり、何度訪れても飽きることがありません。
そんな亀戸の一角に、16年間、スペインの味を届け続けている店があります。
店の名前は、「スペイン郷土料理 タベルナ パタタ」。
今回お話を伺ったのは、オーナーシェフの千田(チダ)さん。スペインへの偶然の旅から始まった人生の転機、亀戸への想い、そして料理へのこだわりについてお話を伺いました。
気軽にふらっと立ち寄れる店。しかし、その奥には16年積み重ねてきた物語がありました。
「タベルナ パタタ」という名前に込めた想い
スペイン語で「タベルナ」は、気軽に飲み食いできる食堂や酒場を意味する言葉。「パタタ」は、「じゃがいも」を意味します。
レストランほど肩ひじ張らず、バルのように気軽に楽しめる。そんな親しみやすい場所を目指して名付けたそうです。
実際にメニューを開くと、そのコンセプトがよく分かります。
ワインだけでなく料理も充実していますが、本格的でありながら、敷居の高さはありません。スペイン料理を楽しみながら、気軽にお酒が飲める。まるでスペインの街角にある食堂に迷い込んだようです。
私自身、「タベルナ」という言葉を耳にしたことはありましたが、その意味を知ったのは今回の取材が初めて。
「今日は何を食べようかな」と気軽に立ち寄れる店名のとおり、店内には自然体の空気が流れていました。

△店内カウンター。千田さんとの会話を楽しみながら料理を味わえます

△カウンター席のほか、テーブル席もあり、ひとりでも、家族や友人との食事でもゆっくり過ごせます
すべての始まりは、一度のスペイン旅行だった
2010年2月にオープンしたスペイン郷土料理 タベルナ パタタ。
千田さんがスペイン料理の世界に入ったきっかけは、意外にも「最初からスペイン料理をやりたかったから」ではありません。
初めてスペインを訪れたのは、10代後半の頃。フランスで開催されたワールドカップをきっかけに海外旅行へ行くことになり、宿泊先の都合から、たまたまバルセロナを訪れることになったのだそうです。
「スペインに行きたくて行ったわけじゃないんですよ」
そう笑いながら話す千田さん。
けれど、たまたま訪れたスペインで食べた料理や街の雰囲気は、強く印象に残りました。
その後、スペインを再び訪れる機会があり、さらにもう一度。
「もう一回行ったなら、店をやらなきゃいけないなって」
スペインとの出会いも、店を始めるきっかけも、どこか自然な流れの中で生まれていったようです。
大きな計画を立てて一直線に進んだというよりも、人生の中で訪れた機会を一つずつつかんでいったそうです。
そんな千田さんの歩みが、現在の店にもつながっています。

△スペインで千田さんが撮影した写真を見せてもらう様子

△千田さんが撮影した写真が、たくさんあります
亀戸だからこそ続けてこられた
店を構えた場所は、千田さんが子どもの頃から親しんできた亀戸。
高校も平井だったことから、この地域にはもともとなじみがありました。
「亀戸は飲食店が多いので、商売をするには競合も多いんですけどね」
そう話す一方で、当時の亀戸にはスペイン料理店がほとんどなく、ワインを楽しめる店もまだ少なかったそうです。
オープン当初は、「サワーはないの?」そんな質問をされることも、少なくありませんでした。
しかし、スペインには焼酎文化がないため、当然サワーもありません。
「ここはスペインなので」
千田さんのそんな答えに、思わず笑ってしまいます。
スペイン料理を特別なものにするのではなく、店名の「タベルナ」に込めたように、“毎日でも気軽に食べてもらえる店にしたい”という思いを持ちながら、千田さんはスペイン各地の料理を追い続けています。

△カジョス。牛ハチノスとガルバンソ豆の煮込み、日替わりメニューからの豆料理です
メニューは“2,000種類以上”。終わりなき探求
スペイン郷土料理 タベルナ パタタの大きな特徴は、スペイン各地の「郷土料理」を味わえることです。
スペイン料理と聞いて、多くの人が思い浮かべる料理の一つがパエリア。スペイン郷土料理 タベルナ パタタでは「パエジャ」と呼ばれる料理を常時8種類以上用意し、日替わりのものも登場します。
実は、日本でよく見かける魚介たっぷりのパエリアは、観光客の増加や流通の発展によって広まったスタイルなのだそうです。
本来のバレンシア地方のパエジャは、“肉と豆”が中心です。
地域が変われば料理も変わり、使われる食材も、味付けも異なります。
千田さんはこれまでスペイン各地を訪れ、現地で料理を食べては、自分の店で提供してきました。
その数は、16年間でなんと“2,000種類”以上!!
「何度来ても、全部食べることはできないと思います」
そう話す千田さん。
来るたびに新しい料理に出会える。メニューを眺めながら「これはどんな料理なんだろう」と想像する時間も、スペイン郷土料理 タベルナ パタタを訪れる楽しみの一つです。
料理だけでなく、食器にも地域性があるそうです。店内にはスペインの街並みを感じさせる装飾や食器も並んでいます。
一皿の料理の向こう側に、その土地の風景が見えてきます。
それが、スペイン郷土料理 タベルナ パタタの郷土料理の面白さなのかもしれません。


△いか墨のまっ黒なパエジャ。みんなでシェアして楽しめる一品です




△店内の至る所に、豊富なメニューが掲示されています

△カトラリーが入った封筒にも、たくさんの料理のメニューが書かれています
野菜でお酒が飲める? 料理は変わり続ける
スペイン郷土料理 タベルナ パタタでは、野菜を使った小皿料理にも力を入れています。
「野菜でお酒が飲めるようにしたい」
そんな発想から生まれた料理の数々。サラダとして野菜を食べるのではなく、スペイン料理として、そしてお酒のつまみとして楽しむのが特徴です。
「スペイン人は、あまり野菜を食べないんですよ」そう聞くと、少し意外に感じるかもしれませんが、だからこそ千田さんは、日本の豊かな野菜をどうスペイン料理として表現するかを考えています。
今回いただいた料理に使われていた野菜はどれも素材の味がしっかり感じられました。
野菜の味を生かしながら、スペイン料理として仕上げる。
その味わいからは、千田さんが日本食材とスペイン料理を組み合わせながら、新しい料理を生み出していることが伝わってきます。
そして、料理と並ぶもう一つの大きな魅力がワインです。
常時100種類以上のワインのラインアップがあります。すべて千田さん自身が選び、料理との相性を考えながら少しずつ種類が増えていったそうです。
料理もワインも、ずっと同じものが並び続けるわけではありません。
新しい料理が加わり、なくなる料理もあります。
だからこそ、訪れるたびに新しい発見があります。
前回食べた料理をもう一度味わうのも良し、まだ食べたことのない料理に挑戦するのも良し、メニューを眺めながら悩む時間も含めて、スペイン郷土料理 タベルナ パタタを訪れる楽しみなのです。

△真いわしとオレンジのバルセロナのサラダ


△ワインのメニュー表。千田さんの手書きで、たくさんのワインが紹介されています
これからも「飲むこと、食べること」が好きな人へ
コロナ禍以降、お客様の層には変化があったそうです。
それでも変わらないのは、「食べることが好きな人」が集まる場所であること。
来るたびに新しい料理と出会えるます。
ワインとの組み合わせを楽しめます。
そして、千田さんとの会話を通して、スペインの食文化や街のことを知ることもできます。
そんな体験が、ここにはあります。
メニューの多さに迷ったときは、ぜひ千田さんに相談してみてください。その日のおすすめや、料理に合うワインを教えてくれるはずです。
亀戸で16年。
流行に流されることなく、自分の好きなスペイン郷土料理を追い続けてきた千田さん。
偶然の旅行から始まった一つの出会いが、今では亀戸の街に根付く一軒へと成長しました。
料理、ワイン、文化、そして人。
それらが少しずつ重なり合って、スペイン郷土料理 タベルナ パタタという店を形作っています。
初めて訪れる方も、常連の方も。きっと次に訪れたときには、また新しい料理や発見に出会えることでしょう。
亀戸でスペインの郷土料理を味わいたくなったら、ぜひ一度、足を運んでみてください。


△徳島県産鹿肉のロースト 自然栽培野菜添え(今回はシェリー酒のソース)
※ソースはその都度変わります。
編集後記
今回の取材で印象に残ったのは、料理の話だけではありません。
千田さんからは、スペインの料理や街、旅の話をたくさん聞かせていただきました。
何度もスペインを訪れ、現地で食べた料理を店のメニューに取り入れてきた千田さん。
スペイン郷土料理 タベルナ パタタの料理は、千田さんの様々なスペインでの体験を通して感じたものが、一皿一皿に詰まっているのだと思います。
また、若い頃はフィルム写真を自分で現像していたという話も印象的でした。
「デジタル化して、つまらなくなった」
そんな言葉を聞きながら、今よりも時間がかかったからこそ、旅や写真をじっくり楽しめた時代もあったのかもしれないと感じました。
今回いただいた料理の中では、野菜料理が特に印象に残りました。日本の野菜を使いながらスペイン料理として仕上げる、その発想がとても面白く感じられました。
次に訪れるときは、今回と違う料理を注文してみたいと思います。

△最後は千田さんと一緒に撮影

※2026年6月取材時の情報です。料金や営業時間などが変更になる場合がございます。詳細は必ず店舗にてご確認ください。
※記事中の金額は全て税込みの価格です。