団地の一角で、20年以上続く“いつもの喫茶店”
公開日:2026年1月13日
※取材時点の料金、営業時間など変更している可能性があります。最新の情報はお店にお問い合わせください。
大島の団地の一角。通りから一歩入ると、時間の流れが少しだけゆるやかになる場所があります。店の扉を開けると、静かに流れるジャズ、そしてサイフォンから立ちのぼる湯気。ここは、20年以上にわたり地域に寄り添い続けてきた喫茶店です。
「特別なことはしていないんです」とオーナー。その“当たり前”を長く続けてきたこと自体が、この店の価値なのだとすぐにわかります。

▲ ブレンドコーヒー(アメリカン)。何も考えずに頼める、いつもの味。この店を知るなら、まずはこの一杯です
きっかけは「空いていた場所」と、人との縁
この場所が生まれたきっかけは、江東区内で行われていた地域講習会だったと言います。 同じ講習会に居合わせた人たちとの縁から、「大島六丁目団地内のスペースを使ってみないか」という話が持ち上がったそうです。
当初は、半年間の実験的な取り組みとして、場所を開放するところから始まりました。高齢者の集まりや地域活動の拠点として、オープンカフェのような雰囲気で使われていたといいます。
次第にその場は、地域にとってなくてはならない存在となり、現在のような一般営業の喫茶店という形に落ち着いていきました。「最初からお店をやろう、というより、人が集まる場所が先にあった感じですね」と、オーナーの相原さんは話します。

▲ オーナーの相原さん。健康予防・増進アドバイザー、食品保健指導士・介護予防運動スペシャリストとしても活動しています
この店は20年以上前からありますが、オープン当初から店内は“禁煙”だったそうです。今でこそ珍しくないですが、20年以上前となると話は別。 相原さんは「正直、賛否はありました」と笑って話してくれました。
それでも健康をテーマに仕事をしてきた背景から、方針は変えなかったそうです。結果として、今では中庭のあるオープンスペースで、外の空気を感じながら過ごす人が増え、静かで落ち着いた空間が保たれています。

▲ 団地の一角とは思えない、ヨーロッパの街角のようなテラス席。
そして、カフェ実楽来が歩んできた20年は、決して一本の道ではありません。かつては生バンドや四重奏、ノコギリ演奏、フラダンスなど、さまざまな表現の場としても使われてきました。
「遠くまで行かなくても、生の音楽に触れられる場所にしたかったんです。」毎月のように続けられた演奏会は、地域の人にとって特別な体験でした。 「気付くと、思っていた方向とは少し違う形に進んでいった気がします」と振り返りますが、その柔軟さこそが、この場所を生き続けさせてきた理由だと感じます。
変わらない味、変わらない距離感
この店のもうひとつの名物が、カレーです。特別なスパイスや流行りのスタイルではありません。どこか懐かしく、“日本のお袋の味”を思わせる一皿。

▲どこか懐かしい味のカレーライス
インド出身のお客さんから「おいしい!」と言われたこともあるそうですが、狙って作ったものではないと言います。「昔ながらの喫茶店のカレー。それをずっと続けているだけで、これからもこの味を守っていきたいです。」また、セットにするとお味噌汁が付いてくるのも、この店らしいところ。
カレーと味噌汁という意外な組み合わせですが、ほっとする味わいで、食後の満足感をやさしく包み込んでくれます。

▲カレーライス+味噌汁(セット)

▲カレーのセットに付くお味噌汁。さりげない一杯が、食後の余韻をやさしく整えてくれます
そして店内に流れる音楽はジャズとクラシック。マスターがセレクトする音を目当てに訪れる人も多いそうです。粋なマスターと会話を交わし、静かに過ごし、混んでくるとそっと帰る。そんな距離感を心地よいと感じる常連が、この場所を支えています。

▲ もともとはムービーカメラマンとして活動していたマスター。視線のやさしさが、この場所の空気をつくっています

▲ 誰でも自然に腰を下ろせる落ち着いた店内席。
“大きくしない”という選択
売上を伸ばすことよりも、安定した営みを続けていくことを大切にしていると言います。これからもマスターには、「体が元気なうちは、できるところまで」このお店を守り続けてほしい。そんなふうに思わずにはいられないと相原さんは語ってくれました。
マスターにとってここは、第二・第三の人生の延長線にある場所。そして同時に、誰かの日常をそっと支え続ける、変わらない居場所でもあります。

▲ 店内に並ぶ置物や装飾の多くは、お客様からの頂き物だそう

▲ 壁面には「自然と増えていった」という絵画が多く飾られています
相原さんは「これから先、何か特別なことを大きく始める予定はありません。イベントを増やしたり、看板を変えたりすることもない。」と言います。
「ただ、健康や予防について、必要とする人がいれば、コーヒーを飲みながら少し話をする。それだけです。それ以上のことはしないし、無理に広げることもしない。」けれど、その謙虚な姿勢こそが、この場所を20年以上続けてきた理由、地域の人たちから愛され続けてきた所以なのかもしれません。
団地の中にある、少しだけ雰囲気の違う喫茶店。ここには、目立つ出来事はなくても、20年分の時間と人の記憶が、静かに積み重なっています。

※ 2025年12月取材時の情報です。営業時間などが変更になる場合がございます。詳細は必ず店舗にてご確認ください。
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