学生服と、これからも
公開日:2026年10月29日
※今回は再取材を実施し、前回掲載後の新たな取り組みや変更点を中心にご紹介します。
※取材時点の営業時間、料金から変更している可能性があります。最新の情報はお店にお問い合わせください。
「うちは100年になるんですよ」
そう聞いたとき、私は思わず聞き返していました。
久しぶりに訪れた株式会社ヒラマ。以前は「ダンスファッション ヒラマ」の看板を掲げ、社交ダンス用品を扱うお店として親しまれていました。ことみせの以前の記事でもご紹介しています。
現在は店舗を移転し、2026年から学生服専門店として新たなスタートを切っています。
けれど取材を終えた今、「ダンスのお店が学生服のお店になった」という説明だけでは、何か足りないような気がしています。
そこには、大正時代から続く商いの歴史と、長い時間をかけて積み重ねられてきた信頼がありました。
原点へ戻るということ
今回の移転には、いくつかの出来事が重なっていたそうです。
貸していた店舗の契約終了。旧店舗周辺の再開発。そして、70歳を過ぎた平間さん自身が「少しシフトダウンしようかな」と考えていたこと。
どれか一つが決め手だったというよりも、さまざまなタイミングが重なった結果だったのでしょう。
「それなら、思い切って場所を変えよう」と、そうして始まった新しいお店づくり。
長く続けてきたダンス用品販売を終えたことについて尋ねると、平間さんは少し笑いながらこう話してくれました。
「半分は残念でした。でも半分はさっぱりしましたね」と正直な言葉だなと思いました。
ダンス用品を販売している際は、初心者だったお客様が経験を積み、やがて上級者になると、シューズや衣装も、求めるものがより専門的になります。そんなお客様の成長を嬉しい気持ちで見守っていたそうです。
しかし、その一方で、ダンス人口の減少や高齢化、インターネットでのオンライン購入の広がりなど、時代の変化も感じていたといいます。
長く続けてきたからこそ、見えてくる景色がある。
平間さんの言葉からは、そんな時間の積み重ねが感じられました。

△旧店舗から引き継いだ什器なども活用して整えた現在の店内
ずっとそこにあったもの
今回のお話のなかで、私にとって最も意外だったのがこの一言でした。
「実は、学生服がベースなんですよ」と平間さん。「ヒラマ」と言えばダンスのお店。そんな印象を持っていた私には意外な言葉でした。
けれど平間さんにとっては、むしろこちらが原点だったのです。
大正時代から続く株式会社ヒラマは、長年にわたり地域の学校とのつながりを育んできました。
昔は入学準備のために何軒もの店を回ったそうです。
学生服は学生服店。
靴は靴店。
カバンはカバン店。
体操着は体操着店。
けれど地域の専門店が少しずつ減っていくなかで、「こちらもお願いできますか」そんな声を受けることが増えました。
そのたびに応えてきた結果、今では学生服だけでなく、カバンや体操着など、学校生活に必要なものをまとめて揃えられる店になっています。
長年の商いのなかで自然と生まれた役割。
入学準備の“まとめ役”という言葉が、しっくりくるように思いました。

△小さなマネキンが着る学生服。店内に飾られた学生服の見本(過去の江東区立第三亀戸中学校の学生服)

△中学校の通学かばんを見てびっくり。最近はこんなに大きなリュックなのですね


△各中学校の上履きや体操着など、数多くの学生用品が店内に並んでいます
学生服が教えてくれること
新入学を控えた親御さんが悩むことの一つが、学生服のサイズ選び。「成長するから、大きめがいい」そう考えるのは自然なことです。
でも平間さんは、必要以上に大きなサイズは勧めません。「3年間ずっとブカブカだった、ということもありますよ」特に女の子の場合、中学入学後はそれほど身長が伸びないこともあるそう。
学生服には袖丈などを調整できるものもあり、一人ひとりに合わせた選び方ができます。
中学生の頃から店に入り、約50年。その間、どれほど多くの子どもたちの成長を見守ってきたのでしょう。だからこそ平間さんの提案は、単なる販売ではなく、『長年の経験に裏打ちされた提案』なのだと感じます。
そして今、学生服そのものも変わろうとしています。
来年度からは、亀戸地区でも、学ランやセーラー服からブレザーへ移行する学校があるそうです。
学生服の変化は、時代の変化でもあり、地域の変化でもあります。
長く学生服に携わってきた株式会社ヒラマは、その移り変わりを見続けているのです。

△平間さん。お店の前で撮影させていただきました
ダンスの場所は、今もここに
ダンス用品の販売は終わりました。
けれど、ダンスとのつながりまでなくなったわけではありません。
『ヒラマスタジオ』は、現在も貸しスタジオとして営業しています。
社交ダンス、バレエ、フラダンス、ヨガ、ストレッチ。
利用者は小学生から80代まで。一人で練習する人もいれば、20名ほどの人数でレッスンを行うグループもあります。
取材の日も、午後から夜まで予約が入っていました。
「場所を探している人が多いんですよ」
教えたい先生はいる。
でも場所が足りない。
そんな状況のなかで、『ヒラマスタジオ』は多くの人に利用されています。
利用料金は、『1時間2,000円』。思わず「安いですね」と聞くと、「そんなに儲けようとは思ってないですから。使ってくれるんだったら、使ってほしい」という答えが返ってきました。
さらに、「入口がちょっと分かりにくいんですよ」とも。
初めて来た人が、どこから入ればいいのか分からずキョロキョロしている姿を思い浮かべて思わず笑ってしまいました。
利用者への心遣いと、ちょっと分かりにくい入口。
その両方を含めての2,000円というわけです。
なんとも平間さんらしい、良心的な料金設定です。

△ヒラマスタジオはこれまでと同じ場所(江東区亀戸1-31-8)にあります

△現在も貸しスタジオとして利用されている「ヒラマスタジオ」。広々としたスペースでさまざまなレッスンが行われる

△スタジオの利用予定表。取材の日も午後から夜まで予約が入っていました

△表から見たヒラマスタジオ(2F)。入口は建物裏にあります

△ヒラマスタジオへの入口は株式会社ヒラマの横を通って入ります。初めて訪れる方は、ちょっと戸惑うかもしれません
踊ること、人とつながること
長年、社交ダンスに関わってきた平間さん。
今は以前ほど自分で踊らなくなったそうですが、ダンスへの思いは変わりません。
「ダンスって、ハマったら本当にハマるんですよ」
習うには、
時間もかかる。
お金もかかる。
それでも続けたくなる。
その理由を聞いているうちに、ダンスの魅力は踊ることそのものだけではないのだと感じました。
「人とのつながりが生まれやすいんですよ」
相手と呼吸を合わせる。
一緒に動く。
体を合わせて踊るからこそ、自然と距離が縮まり、仲間ができる。
コロナ禍でも、多くの人がマスクをしながら踊り続けていたという話が印象に残りました。
そこまでして続けたいと思えるものが人生にある。
それだけ夢中になれるものがあるというのは、ちょっとうらやましいことでもあります。
100年の先へ
平間さんが中学生の頃から関わり、約50年にわたって歩んできた株式会社ヒラマ。
その間に、亀戸の街も大きく変わりました。
昔からの店が減り、新しい店が増える。景色も少しずつ変わっていく。それでも、変わらない光景があります。
「自分も子どもの頃にヒラマで買ったんですよ」
そう言いながら、今度は親として子どもを連れて来店する人がいることです。
親から子へ。そしてまた次の世代へ。
長く地域で商売を続けてきた店だからこそ生まれる光景です。
これから先について尋ねると、学生服の仕事は簡単に「やめます」と言えるものではないと話してくれました。
学校との信頼関係があり、利用する子どもたちがいる。
だから将来、自分が店を離れるときには引き継いでくれる人を探さなければならない。
「学校さんも困っちゃいますからね」その言葉には責任感がにじんでいました。
最後に「ヒラマらしさとは何でしょうか」と尋ねました。
少し考えたあとに返ってきたのは、とてもシンプルな言葉でした。
「信頼いただけるようなサービスを心掛けています」学生服も。スタジオも。
扱うものは変わっても、人とのつながりを大切にする姿勢は変わらない。
それこそが、100年続いてきた理由なのだと思います。

△これからも地域とともに歩んでいく株式会社ヒラマ
取材後記
学生服の話を聞くつもりで伺った取材でした。
ところが気が付けば、ダンスの話になり、人生の話になり、亀戸の街の話になっていました。
平間さんのお話には、いつも続きがあります。
一つ聞くと、また新しい扉が開く。
そんな時間でした。
なかでも盛り上がったのが、社交ダンスの話です。
私が好きな映画や漫画、アニメの話をすると、予想以上に話が弾み、最後には「社交ダンス、始めたら?」と勧められてしまいました。
「いつか必ずやりたいとは思っている」とお伝えしたところ、思いがけず、社交ダンスとの距離がぐっと近くなる出来事が。
取材を終える頃には、社交ダンスが以前よりもずっと身近なものに感じられるようになりました。
人生、何がきっかけになるかわかりません。
学生服をきっかけに訪れた今回の取材でしたが、最後に心に残ったのは、長く地域で商売を続けることの重みと、人とのつながりを大切にしながら、これから先の人生を楽しもうとする平間さんの姿でした。
100年近く続いてきた株式会社ヒラマ。
これからも、亀戸の子どもたちの「入学」を支えながら、さまざまな人が集い、新しいつながりが生まれる場所であり続けるのでしょう。
そして私もいつか、ヒラマスタジオで一曲……。
そんな日が本当に来るかもしれません。

△たくさんの楽しい時間をありがとうございました。平間さんご夫妻と最後に記念撮影
※2026年8月取材時の情報です。料金や営業時間などが変更になる場合がございます。詳細は必ず店舗にてご確認ください。
※記事中の金額は全て税込みの価格です。