東陽町「韓国家庭料理 柳」が紡ぐ、10年の時間とこれから
公開日:2026年2月24日
※取材時点の料金、営業時間など変更している可能性があります。最新の情報はお店にお問い合わせください。
東陽町駅から少し歩いた場所に、平日の昼どきになると賑わいを見せる店がある。韓国家庭料理 柳(やなぎ)は、派手な看板も、流行を追った装いもないが、一度足を踏み入れると、なぜか何度も思い出してしまう。
この店を切り盛りしているのは、3代目の店主・深田さん。韓国料理店の店主と聞くと、料理一筋の経歴を想像するかもしれないが、その歩みは少し異なります。

▲ 3代目の店主・深田さん
名前を変えずに、受け継いだもの
「柳」という店名の由来は、実ははっきりとは分かっていないそうです。初代、そして二代目の店主はいずれも韓国の方で、店名は当初のまま受け継がれてきました。
「初代店主さんにはお会いしたことはないですが、“ここでお店を続けてきた人の時間や想い”を、簡単には手放したくなかったんです。看板をかえるのも大変ですし(笑)」
20年以上前、日本で韓国料理店を営むことは、今以上に覚悟のいる選択だったはず。深田さんは、先代の店主に思いを馳せながら、この店の名前と歴史をそのまま引き継ぎました。

▲ お店のロゴはデザイナーの友人が手がけたもの
思いがけない転機が、この場所だった
深田さんのキャリアは、理工学部の電気電子工学科卒業から始まります。大学卒業後は通信、半導体といった技術畑で20年近く働いてきました。
「サラリーマンとして、いろいろありました。話し出すと3時間くらいかかりますけどね(笑)」
忙しさやプレッシャーの中で、自分のこれからを考え直したとき、思いがけず舞い込んだのが「この店を引き継がないか」という話でした。飲食経験はほぼゼロ。それでも、「ここでなら、自分にできることがあるかもしれない」と決断しました。
それから正式に店を引き継ぎ、再スタートしたのは2018年。気づけば、韓国家庭料理 柳に関わって10年近い時間が流れています。

▲ ランチメニューで女性からも大人気の「チーズ豆腐チゲ」。身体の芯から温まる、やさしいコクがたまらない一品

▲ 一度食べたらリピーター続出の「ジャガイモチゲ」。贅沢にトッピングされた荏胡麻が、香ばしさをぐっと引き立てる

▲ジャガイモのホクホク感と、ごろっとした肉厚食感で満足度抜群
店内に目を向けると、どこか手仕事の温度が残っている。テーブルやベンチ、厨房の食器棚、カーテンの仕切り。なんとそれらの多くは深田さんのDIYによるもの。
「コロナの時期は時間もありましたし、必要に迫られて作ったものもあります。なければ、自分で作ろうと思って」
飲食も、店づくりも、根底にあるのは“続けるための工夫”。派手さよりも、無理のない形を積み重ねていく姿勢が、10年という時間を支えてきたように感じられます。

▲ 広々とした店内は貸切相談も可能。そしてなんと店内のテーブルは、深田さん自らDIYで制作したもの

▲ 深田さん力作の客席は、お客様の荷物などをしまえる収納ボックスとしても活躍する
“サラリーマンの気持ちがわかる”店主として
「韓国家庭料理 柳」の主なお客様は、平日に働く会社員の方が中心です。 区役所やオフィスが多い東陽町という街の特性もあり、ランチタイムには一人で訪れる人の姿も多いと言います。
「午前中、なんとか仕事を頑張って、ここでご飯を食べて、午後ももうひと踏ん張りしようって思ってもらえたら。それが一番嬉しいですね」
かつて同じように働いてきたからこそ、疲れた表情や何気ない一言に、自然と寄り添える。料理は“ごちそう”であると同時に、働く人の背中を押す存在でもあるのがこの場所の特徴です。

▲料理の良い香りを間近で感じながら、時には深田さんとの会話も楽しめるカウンター席
コロナ禍が生んだ「チゲの素」
2020年、韓国家庭料理 柳も例に漏れず、コロナ禍で店を開けられない期間が続きました。その時間の中で生まれたのが、オリジナルの「チゲの素」。「来られなくなったお客様にも、柳の味を再び届けたかったんです」人工的な魚介風味に頼らず、具材そのものの味を引き出す配合。肉を入れれば肉の、魚介を入れれば魚介の旨みが立つ。韓国料理以外にも万能調味料として使えることも大きな特徴です。

▲ 必要なのは「素+具+水」の3つだけ!おうちで誰でも簡単に柳の本格チゲが作れる
転勤や引っ越しで東陽町を離れた常連さんが、SNSを通して感想を寄せてくれることもあるそう。
そんな声が届いたとき、「やってきてよかった」と、あらためて実感するのだと言います。

▲ 韓国家庭料理 柳の「チゲの素」を使った麻婆豆腐を実際に調理していただきました。「チゲの素」を加えた瞬間、店内に香りが一気に立ちのぼる
※ 麻婆豆腐は店頭メニューにはございません

▲「チゲの素」は麻婆豆腐はもちろん、炒め物や下味にも。使い方次第で楽しみ方は無限大

▲ ごはんが止まらない、韓国家庭料理 柳のチゲの素で作った絶品麻婆豆腐。シンプルなのに奥深い味わいがやみつきになる
これからの10年、その先へ
昨年50歳を迎えた店主・深田さんは、これからの時間を冷静に見据えていました。「今と同じことを、そのまま続けられるとは思っていません。体力も変わるし、やり方も工夫しないと」それでも目標は明確です。
「最低でもあと15年、できれば20年。この味を守り続けたい」そして、その先には「千年続く味にしたい」という想いも語ってくれました。
自分一代では辿り着けない時間だからこそ、食という文化に託せる希望がある。流行でも、映えでもない。ただ、今日ここで食べる一杯が、誰かの一日を少しだけ前向きにする。東陽町で働く人たちの日常に、優しく、そして頼もしく寄り添うのが韓国家庭料理 柳です。
その味と、その時間は、これからも変わることなく、このまちに根を張り続けていくでしょう。

※ 2026年1月取材時の情報です。営業時間などが変更になる場合がございます。詳細は必ず店舗にてご確認ください。
※ 記事中の金額は全て税込みの価格です。