清澄白河で出会う、「もうひとつの家」
公開日:2026年8月5日
※取材時点の料金、営業時間など変更している可能性があります。最新の情報はお店にお問い合わせください。

清澄白河駅から歩いて2分ほどに、異国の温かな空気を感じる一軒のお店があります。
ウクライナ家庭料理店「DOMIVKA(ドミウカ)」です。
店名の「DOMIVKA」は、ウクライナ語で「家」という意味。その名のとおり、店内にはまるで誰かの家に招かれたかのような、優しい時間が流れています。
色鮮やかな刺繍や装飾、お店のみなさんの明るい笑顔、そして料理の香り。
初めて訪れたはずなのに、不思議と「ただいま」と言いたくなる。そんな温かな空気が、この場所にはありました。
そんなDOMIVKAは、ある一人の力士の言葉から始まりました。

△ウクライナの装飾や刺繍が彩る、温もりあふれる店内
「いつもウクライナを感じる料理が食べたい」
DOMIVKA誕生のきっかけは、ご近所の相撲部屋で開催されたウクライナちゃんこ会でした。その会で力士さんたちにウクライナ料理が好評で「いつもウクライナを感じられる料理が食べたい」の一言が始まりだったそうです。
ウクライナの料理をもっと身近に感じられる場所をつくろうという想いで、お店のオープンに向けて周囲の人たちが動き出しました。
その想いは、同じ志を持つ仲間たちとの出会いによって、少しずつ形になっていきました。
その中心メンバーの一人が、日本に来て19年になるウクライナ出身のヴィクトリアさんです。文化や暮らしまで伝えたいという共通の想いのもと、プロジェクトをともに育んできました。
このプロジェクトが進んでいく中で声がかかったのがオーナーの真下さんでした。
真下さんもヴィクトリアさんたちの想いに共感して、快諾されたそうです。
もともと飲食店経営に携わっていた真下さんですが、ウクライナ料理店を立ち上げるのは初めてのことでした。
一方で、ヴィクトリアさんが本場のウクライナ料理を提供するとなると課題もありました。
日本での生活が長くなったからこそ、現地そのままの味を再現するには不安もあったといいます。
そこでヴィクトリアさんが頼ったのが、お母様のイリーナさんでした。
本場の味を伝えるため、お母様を日本へ
ヴィクトリアさんのお母様イリーナさんは、ウクライナで長年シェフとして活躍してきた料理人です。
本場の味を届けるため、日本へ来て厨房に立つことになりました。
しかし、ウクライナと日本では手に入る食材が違います。
野菜も違う。
肉も違う。
調味料も違う。
同じレシピで作っても、同じ味になるとは限りません。
そのため親子で意見がぶつかることも少なくありませんでした。
「これは違う」
「でも日本ではこの材料しかない」
そんなやり取りを何度も繰り返しながら、ウクライナ本来の味を追求してきました。
「よくけんかしていますよ」
ヴィクトリアさんはそう笑います。
今でも食材選びには苦労があり、本場の味を再現するための試行錯誤は続いています。
けれど、その積み重ねこそがDOMIVKAの味を支えているのです。

△左から、イリーナさん、真下さん、ヴィクトリアさん

△訪れたウクライナ出身のお客様が、自分の故郷にピンを止める壁にかかった地図のオブジェ。日本にいながら故郷とのつながりを感じられる、温かな取り組みです
日本人が「懐かしい」と感じるウクライナ料理
DOMIVKAを訪れたらぜひ味わいたいのが、ボルシチです。
ボルシチと聞くと赤いスープを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、ウクライナにはさまざまな種類のボルシチがあります。
DOMIVKAで提供されているゼレニイ・ボルシチ(グリーンボルシチ)は、日本ではあまり見かけることのない一品です。
ほうれん草をはじめとする、野菜のやさしい旨みが広がり、どこかほっとする味わいです。
「ウクライナ料理は、日本のお客様から“懐かしい味がする”と言われることがあるんです」
ヴィクトリアさんはそう話します。
ウクライナの料理でありながら、日本人が“懐かしさ”を感じる。
その言葉がとても嬉しかったそうです。
国や文化が違っても、人が“おいしい”と感じる記憶には共通するものがあるのかもしれません。

△ゼレニイ・ボルシチ(グリーンボルシチ)とパンプーシュカ

△にんにくとハーブの香る特製バターがたっぷりしみ込んだパンプーシュカとボルシチの相性は間違いなしです
注文が入ってから作る、こだわりのヴァレーニキ
もう一つの人気メニューが、ウクライナの伝統料理「ヴァレーニキ」です。
もちもちとした生地の中に具材を包んだ料理で、日本でいう餃子や水餃子のような存在です。
そしてDOMIVKAでは、
「すべての料理で、冷凍品は使わない。」
それがイリーナさんの譲れないこだわりなのです。
注文が入ってから調理を始め、一番おいしい状態で提供する。
時間と手間はかかりますが、「一番おいしい状態で食べてほしい」という想いがあるからです。
出来立てを口にすると、生地の食感や具材の旨みがより一層感じられます。

△ヴァレーニキ。手づくり水餃子です

△DOMIVKAのヴァレーニキは、ジャガイモやキャベツなど、具材ごとに楽しめる一品。お好みで鶏レバー入りを選ぶこともできます。
「ブージモ!」でつながる人と人
夜のDOMIVKAには、昼とはまた違う楽しさがあります。
ウクライナの伝統的なお酒「ホリルカ」を囲みながら交わされるのが、「ブージモ!」という乾杯の掛け声です。
誰かが「ブージモ!」と声を上げると、周囲から「ヘイ!」と元気な返事が返ってきます。
初めて来店した人も、気づけばその輪の中にいます。
国籍や年齢を超えて、一緒に食事を楽しむ時間。そこには、お店が大切にしている“家族のような温かさ”がありました。

△ウクライナの伝統的なお酒「ホリルカ」。料理とともに、本場の食文化を楽しめます。

△ブージモ!

△「ホリルカ」を初体験

△想像以上の力強い味わいに、思わずこの表情。気づけば、また飲みたくなる味わいです
料理を通して届けたいのは、温かな居場所
DOMIVKAの魅力は料理だけではありません。
訪れるお客様は、日本の方だけでなく、日本で暮らすウクライナの方やウクライナに興味を持つ方たちなど、多様です。
「初めて来たお客様同士が仲良くなることもあるんですよ」
そう微笑むヴィクトリアさんの言葉からも、このお店が単なるレストランではないことが伝わってきます。
お客様同士が自然と言葉を交わし、スタッフとの会話に笑顔が生まれる。そんな温かな空気が流れています。
「また来ます」
帰り際にそう声をかけるお客様も少なくありません。
DOMIVKAのコンセプトはとてもシンプルです。
「家に帰ってきたような雰囲気を味わっていただくこと」
店名の「DOMIVKA」にも、その想いが込められています。
そして料理と同じくらい大切にしているのが接客です。
「一人ひとりのお客様を大切にしたい」
ヴィクトリアさんはそう話します。
おいしい料理を楽しみながら、安心して過ごせる場所。
また帰ってきたいと思える、心安らぐ空間。
DOMIVKAが目指しているのは、誰もが「ただいま」と言える、”もうひとつの家“なのです。

△「モタンカ人形」。ウクライナで古くから親しまれてきた伝統的なお守り。家族の幸せや平和への願いが込められています

△思わず手に取ってみたくなる、店内の素敵な調度品
◆取材後記◆
取材中、一番心に残ったのは「ブージモ!」の乾杯でした。
ブージモは、ウクライナで親しまれている乾杯の掛け声です。
誰かが「ブージモ!」と声を上げる。
すると、その場にいるみんなが「ヘイ!」と応える。
言葉も文化も違う人たちが、同じテーブルを囲み、同じタイミングでグラスを掲げる。
その瞬間だけは、みんなが自然と一つになっているように見えました。
DOMIVKAには本場のウクライナ料理があります。
けれど、このお店が届けているのは料理だけではありません。
人と人とをつなぎ、文化と文化が出会い、新しい縁が生まれる場所なのだと思います。
料理を囲み、笑い合い、また会えることを喜び合う。
そんな”家”のような場所が、清澄白河にはありました。
取材を終えた今も、あの日の乾杯の声が耳に残っています。
この記事を読んでくださった皆さんも、ぜひご一緒に。

ブージモ! ヘイ!
ブージモ! ヘイ!
ブージモ! ブージモ! ブージモ! ヘイ! ヘイ! ヘイ!

△取材の最後は、皆さんと一緒に記念撮影。まるで“家族”のような温かな時間でした
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