変わらない味、変わっていく街受け継がれる「いちばん星」の灯
公開日:2026年10月14日
※今回は再取材を実施し、前回掲載後の新たな取り組みや変更点を中心にご紹介します。
※取材時点の営業時間、料金から変更している可能性があります。最新の情報はお店にお問い合わせください。
清澄白河駅から歩いて5分ほど。
カフェやベーカリー、ギャラリーが並び、今では東京を代表する人気エリアのひとつになった清澄白河。
その一角で、1999年のオープン以来、地域の人たちに親しまれてきたのが「下町食楽酒房 いちばん星」です。
ことみせでは、これまでに2度ご紹介してきました。
今回、3度目の取材に伺ったのは、“ディナーが新しい形になった”からです。
「夜はもう、私たちじゃないんですよ」取材の冒頭、そう笑う宮﨑さん。
以前は宮﨑さんご夫妻で昼も夜も営業していましたが、2025年11月から夜営業を担うのは、長年この店に通ってきた金子さんご夫妻です。
昔ながらの洋食の話を聞きに来たはずが、気がつけば清澄白河の昔話、お祭り、地域の話、さらには晩酌の話まで。
笑い声の絶えない取材から見えてきたのは、料理だけではない「下町食楽酒房 いちばん星」の魅力でした。
変わらない、「昔ながらの洋食」
お店のコンセプトは、「昔ながらの洋食」。
ランチには、近隣で働く人や地域の常連客が訪れます。
人気を集めているのは、ポークソテー、オムハヤシライス、エビフライ。
どれも洋食店ではおなじみのメニューですが、長く続く店だからこそ、「昔、どこかで食べたことがあるよな」という懐かしさがあります。
なかでも人気なのがエビフライ。
大ぶりのエビを使った一皿で、多い日には朝から50本近く仕込むこともあるそうです。
「ここのエビフライはおいしいって、よく言っていただくんですよ」
宮﨑さんがそう話すエビフライは、以前、テレビでも紹介されたことがあるそう。
長年通うお客さんはもちろん、評判を聞いて訪れる人も少なくありません。
そして、もう一つの定番がポークソテー。
実は、昼と夜では少し違います。
ランチは限られた休憩時間で食事をする人が多いため、食べやすい厚さに。
一方、夜はゆっくり食事とお酒を楽しめるよう、少し厚切りで提供しています。
同じ「ポークソテー」でも、時間帯によって少し表情が変わる。
それも「下町食楽酒房 いちばん星」の面白さです。

△1999年のオープン以来、地域に愛され続ける「下町食楽酒房 いちばん星」

△ランチで味わえる、昔ながらの洋食「ポークソテー」(店舗提供写真です)

△オムハヤシライスとポテサラコロッケ。昔ながらの洋食がランチを彩ります(店舗提供写真です)

△ハンバーグ&エビフライ。思わずうれしくなる、昔ながらの洋食の組み合わせ(店舗提供写真です)
常連客から店主へ。夜営業を受け継いだご夫妻
今回の再取材で最も大きな変化が、夜営業です。
2025年11月から夜営業を担当しているのは、金子さんご夫妻。
実はお二人とも、もともとは常連客でした。
料理が好きだった金子さんは、以前から宮﨑さんに、
「これ、どうやって作るんですか?」
「これはどうするんですか?」
と、いろいろ尋ねていたそうです。
そんなやり取りを長年重ねる中で、宮﨑さんから声をかけられました。
「夜、やってくれない?」
宮﨑さんご夫妻も年齢を重ね、これからは昼の営業に集中したい。
そんな宮﨑さんの想いと、料理への愛情を持つ金子さんご夫妻の想いが重なり、新しい夜営業がスタートしました。
もちろん、料理を任せる以上、宮﨑さんも味には妥協しません。
長年の経験をもとに料理を教え、金子さんご夫妻が作った料理を実際に食べて、味を確かめていったそうです。
そして、最後には、
「合格をいただいたので」
と金子さん。
まるで長年通った常連さんへの「卒業試験」のようです。
宮﨑さんにとっては、自分たちが大切にしてきた味を任せられる人がいることが何よりの安心。
金子さんご夫妻にとっても、長年通ってきたお店を任せられることは大きな意味があります。
単なる営業の交代ではなく、人と人との信頼から生まれた引き継ぎなのです。

△夜の時間に合わせて少し厚切りにした、人気の「ポークソテー」(店舗提供写真です)

△香ばしい風味が食欲をそそる、夜営業の人気メニュー「ガーリックシュリンプ」(店舗提供写真です)
夜は、料理とお酒を楽しむもうひとつの顔
夜の「下町食楽酒房 いちばん星」は、昼とは少し違う雰囲気になります。
メインとなるのは、厚切りポークソテーやガーリックシュリンプ。
おつまみや揚げ物もあり、お酒を楽しむ人もいれば、食堂のように夕食を食べに来る人もいます。
「居酒屋だけど、ご飯を食べに来る人もいるんですよ」
そんな言葉どおり、気取らなさもこの店らしい魅力です。
仕事帰りに一杯飲む人。
しっかり夕食を食べる人。
仲間と集まって楽しむ人。
25名程度までの利用にも対応しており、ちょっとした集まりや宴会にも利用できます。

△ひとりでも気軽に立ち寄れる、カウンター席

△入口からすぐのテーブル席。家族や友人との食事にもぴったりです

△ゆっくり食事を楽しめる、店内奥のテーブル席
「今日は何があるんだろう」が楽しみになる
夜営業の楽しみは定番メニューだけではありません。
その日の仕入れによって変わる季節料理も人気です。
夏なら「とうもろこし」、冬になれば「大根」や「おでん」。
時には「山椒の葉の天ぷら」が登場することも。
「今日は何を作ろうかな」
そんな金子さんの発想から、その日だけの一皿が生まれます。
最近はキーマカレーも復活。
さらに日替わりでハムやイカのフライなどが登場することもあるそうです。
「ちょこちょこ入れたり、出したりしてますね」
そう笑う姿もなんだか楽しそう。
お店に行ってから今日のおすすめを聞く。
そんな昔ながらの楽しみ方ができるお店は、意外と少なくなったのかもしれません。

△お酒のお供にも、しっかり食事にも。夜の時間を楽しむ料理がそろいます

△料理をつまみながら、好きな一杯を。夜の時間を楽しむドリンクメニュー
「この人はトマトが苦手だから」
長く続く店には、料理以外にも「また来たくなる理由」があります。
取材中、特に印象に残ったのが、お客さんの好みの話でした。
「この人はトマトが嫌いだから」
「この人は玉ねぎがダメで」
「この人はセリが好きなんですよ」
料理の味だけでなく、お客さん一人ひとりの好みまで覚えているのです。
次にそのお客さんが来店したときには、苦手なものを外してあげる。
好きなものがあれば、少し加えてあげる。
名前を覚えてもらえるだけでもうれしいものですが、「前に食べたもの」や「苦手なもの」まで覚えてもらっていたら、それは、もっとうれしいものです。
そんな小さな積み重ねが、長年の常連客を生んできたのでしょう。
2015年にことみせで紹介した記事には、「もう一つの我が家でごはんを食べる気分」という言葉がありました。
10年以上経った今も、その雰囲気は変わっていません。
むしろ、今回の取材でお話を伺っていると、その言葉の意味が少し分かったような気がしました。
料理を食べに来るだけではない。
「あの人に会いに行こう」と思える場所。
そうしたところも、このお店の大きな魅力なのかもしれません。

△この看板が目印。「下町食楽酒房 いちばん星」
変わる街の中で、残していきたいもの
今回の取材では、料理の話と同じくらい、清澄白河の昔話にも花が咲きました。
今ではカフェやベーカリーが増え、国内外から多くの人が訪れる街になりました。
けれど、昔の清澄白河は今とはずいぶん違う雰囲気だったそうです。
地下鉄の駅ができ、交通が便利になり、少しずつ新しいお店が増えていった。
街が変わっていくことは、もちろん悪いことではありません。
ただ、新しいお店が増える一方で、昔から続いてきたお店がなくなってしまうこともあります。
だからこそ、「下町食楽酒房 いちばん星」のようなお店が残っていることには意味があります。
地域のお祭りでつながる人。
近所のお店同士で行き来する人。
長年通う常連客。
そして、初めて来た人にも自然に声をかける人たち。
取材中には、清澄白河の魅力について、
「ちょっとおせっかいなくらい、人に尽くしちゃうところがある」
という話も出ました。
少しおせっかいなくらいの人情。
それは、今の街には少なくなってきたものなのかもしれません。
新しいものが増えても、昔からあるものが消えてしまう必要はない。
「下町食楽酒房 いちばん星」は、そんな街の変化を見つめながら、今日もお店を開けています。

△どれにしようか迷うのも楽しい、昔ながらの洋食が並ぶランチメニュー

△ランチメニューの続き。ドリンクもいろいろ

△いつもの洋食に加えて、期間限定メニューも。「スパイシーキーマカレー」と「三角ハムカツ&ふわふわオムレツ定食」
変わらないことが、一番難しい
「これから、どんなお店にしていきたいですか?」
そう尋ねると、返ってきた答えは意外なほどシンプルでした。
「このまま、変わらずに」
新しいメニューを考える。
夜営業を新しい人が担う。
店の形は少しずつ変わっていく。
それでも、味は変えない。
「変わらないことが一番難しいんですよ」
毎日の仕込みをして、料理を作る。
いつもと同じ味を出す。
そして、お客さんを迎える。
それを何年も、何十年も続けていく。
「味、変わったね」と言われないためには、毎日の積み重ねが欠かせません。
宮﨑さんご夫妻が守ってきた味を、今度は金子さんご夫妻が受け継いでいく。
変わらないために、少しずつ変わっていく。
一見すると矛盾しているようですが、それこそが、長く続くお店に必要なことなのかもしれません。
1999年から続く「下町食楽酒房 いちばん星」その灯は今、新しい担い手へと受け継がれながら、これまでと変わらない場所で静かに灯り続けています。

△夜営業のメニューが並ぶ、店先の置き型看板
昼も、夜も。「今日はここで食べよう」
昼は、ポークソテーやオムハヤシ、エビフライを。
夜は、厚切りポークソテーをつまみながら、お酒を一杯。
季節の野菜を使った、その日だけの料理に出会えることもあります。
一人でも、家族でも、仲間同士でも。
気取らずに入れて、「今日はここで食べよう」と思える場所。
それが、「下町食楽酒房 いちばん星」です。
新しいお店が増え、街の景色が変わっていく清澄白河。
その中で、変わらずに残っている昔ながらの洋食があります。
そして今、その味は新しい人へと少しずつ受け継がれています。
昼も夜も、「気取らずに」、昔ながらの洋食と、人の温かさを味わいに、「下町食楽酒房 いちばん星」を訪れてみてはいかがでしょうか。

△大きな看板のそばで、そっと目を引く小さな案内看板
取材後記
今回の取材は、最初から最後までよく笑った取材でした。
料理の話をしていたと思ったら、いつの間にか清澄白河の昔話になり、さらにはお酒の話や普段の生活の話まで広がっていきました。
「取材って、こんなに話が広がるものなんだ」と思うくらい、いろいろな話を聞かせていただきました。
それくらい、宮﨑さんご夫妻、金子さんご夫妻との会話が自然で楽しかったのだと思います。
そして、笑いの多い取材の中で、ふと心に残ったのが、「変わらないことが一番難しい」という言葉でした。
新しいものが次々と生まれる時代だからこそ、長く続けることの価値は大きいのかもしれません。
今回、夜営業が金子さんご夫妻に引き継がれたことで、お店は少し変わりました。
でも、その背景にあるのは、宮﨑さんご夫妻が長年かけて築いてきたものへの信頼でした。
お客さんの好き嫌いを覚えていること。
近所のお店同士で行き来すること。
少しおせっかいなくらい、相手のことを気にかけること。
そんな一つひとつが積み重なって、「下町食楽酒房 いちばん星」という場所になっているように感じました。
取材を終えた帰り道、気づけばお腹が空いていました。
昼のポークソテーにするか、夜の厚切りポークソテーにするか。
結局、また取材を理由に顔を出してしまう気がしています。

△笑い声の絶えなかった今回の再取材。宮﨑さんご夫妻、金子さんご夫妻と一緒に記念撮影
※2026年7月取材時の情報です。料金や営業時間などが変更になる場合がございます。詳細は必ず店舗にてご確認ください。
※記事中の金額は全て税込みの価格です。